演算増幅器を用いた基本回路
科目名: 電子工学実験I(2000年〜2006年)
対象: 電子工学科3年目
実験室: 情報エレクトロニクス棟6階6-13
レポート提出締切: 次週の火曜日
レポート提出先: 情報エレクトロニクス棟6階6-08
連絡先: 青木 直史(Tel: 706-6532)(E-mail: aoki@nis-ei.eng.hokudai.ac.jp)
目的
演算増幅器を使用すると増幅回路等の設計が非常に簡単になり,電子回路について高度な知識を持たなくても高性能の応用回路を容易に実現することができる.本実験は,演算増幅器の基本動作を理解し,いくつかの応用回路について習熟することを目的としている.
1.はじめに
「演算増幅器」は,本来,アナログ・コンピュータの基本回路であり,アナログ信号に対する演算を行うという意味で,演算増幅器(Operational Amplifier: オペアンプ)と名付けられた経緯がある.
演算増幅器は,2個の入力端子,1個の出力端子,負電源端子,正電源端子を持つ差動増幅器で,通常,電源端子を除いて図1のように表記される.ここで,-記号の入力端子は「反転入力端子(Inverting Input)」,+記号の入力端子は「非反転入力端子(Non-Inverting Input)」と呼ばれる.
図1に示すように,反転入力端子と非反転入力端子の間に入力電圧viをかけると,それが増幅されてAv倍の出力電圧Avviとなることが演算増幅器の基本的な性質である.
図1.演算増幅器の記号
ただし,安定した出力を得るため,演算増幅器を使用する際は出力端子から反転入力端子に対して負帰還をかけて使用することが一般的である.負帰還をかけた場合,理想的な演算増幅器では,
(a) 入力端子間にかかる電圧viはゼロ
(b) 入力端子間を流れる電流iiはゼロ
となる.演算増幅器を用いた応用回路の特性は,これらの性質から簡単に求めることができる.
本実験で使用する演算増幅器,TA75071pを図2に示す.TA75071pでは,2番端子は反転入力端子,3番端子は非反転入力端子,6番端子は出力端子となっている.また,4番端子は負電源端子,7番端子は正電源端子で,それぞれ-15V,+15Vを供給する必要がある.
図2.TA75071p:(a) トップ・ビュー,(b) 各端子の機能
2.非反転増幅回路
2.1 説明
図3のように抵抗R1,R2を配置し,非反転入力端子に入力電圧をかけた回路を「非反転増幅回路」という.
演算増幅器の入力端子間にかかる電圧viはゼロであることから,抵抗R1にかかる電圧は入力電圧v1に等しくなる.したがって,R1を流れる電流は,
i1=v1/R1 (1)
となる.また,演算増幅器の入力端子間を流れる電流iiはゼロであるから,式(1)の電流はすべて抵抗R2を流れる.その結果,R2には図のような+,-の向きに電圧が生じる.出力電圧はR2の+側の電圧であるから,R2の-側の電圧v1にR2にかかる電圧R2i1を加えて,
v2=v1+R2i1 (2)
となる.ここで,式(1)を式(2)に代入すると,
v2=v1+R2v1/R1 (3)
となる.したがって,非反転増幅回路の電圧利得は,
Av=v2/v1=1+R2/R1 (4)
となる.
図3.非反転増幅回路
2.2 実験
(a) 非反転増幅回路を作成する.ただし,R1=12kΩ,R2=18kΩとする.電圧利得の実測値(v2/v1)と理論値(1+R2/R1)を比較する.
(b) 入力電圧と出力電圧をスケッチし,同相になっていることを確認する.
3.反転増幅回路
3.1 説明
図4のように抵抗R1,R2を配置し,反転入力端子に入力電圧をかけた回路を「反転増幅回路」という.
演算増幅器の入力端子間にかかる電圧viはゼロであり,さらに非反転入力端子が接地されていることから,抵抗R1にかかる電圧は入力電圧v1に等しくなる.したがって,R1を流れる電流は,
i1=v1/R1 (5)
となる.また,演算増幅器の入力端子間を流れる電流iiはゼロであるから,式(5)の電流はすべて抵抗R2を流れる.その結果,R2には図のような+,-の向きに電圧が生じる.出力電圧はR2の-側の電圧であるから負の電圧となり,
v2=-R2i1 (6)
となる.ここで,式(5)を式(6)に代入すると,
v2=-R2v1/R1 (7)
となる.したがって,反転増幅回路の電圧利得は,
Av=v2/v1=-R2/R1 (8)
となる.-の符号は,入力電圧と出力電圧が逆相となること(波形の正負が反転すること)を表している.
図4.反転増幅回路
3.2 実験
(a) 反転増幅回路を作成する.ただし,R1=12kΩ,R2=18kΩとする.電圧利得の実測値(v2/v1)と理論値(-R2/R1)を比較する.
(b) 入力電圧と出力電圧をスケッチし,逆相になっていることを確認する.
4.加算回路
4.1 説明
図5に示した回路は,2個の入力電圧v1とv2の重み付きの和を得る回路で,「加算回路」と呼ばれる.演算増幅器の入力端子間にかかる電圧viはゼロであるから,抵抗R1,R2を流れる電流はそれぞれ,
i1=v1/R1
i2=v2/R2 (9)
となる.また,演算増幅器の入力端子間を流れる電流iiはゼロであるから,式(9)の電流はすべて抵抗R3を流れる.その結果,R3には図のような+,-の向きに電圧が生じる.このとき,出力電圧は,
v3=-R3i3
=-R3(i1+i2)
=-R3v1/R1-R3v2/R2 (10)
となり,2個の入力電圧の重み付きの加算ができる.
図5.加算回路
4.2 実験
(a) 加算回路を作成する.ただし,v1=v2,R1=12kΩ,R2=12kΩ,R3=18kΩとする.電圧利得の実測値(v3/v1)と理論値(-R3/R1-R3/R2)を比較する.
5.減算回路
5.1 説明
図6に示した回路は,2個の入力電圧v1とv2の重み付きの差を得る回路で,「減算回路」と呼ばれる.演算増幅器の入力端子間を流れる電流iiはゼロであるから,非反転入力端子の電圧は,
v3=R4v2/(R3+R4) (11)
となる.また,演算増幅器の入力端子間にかかる電圧viはゼロであるから,反転入力端子および非反転入力端子の電圧は等しくなり,結果として,R1を流れる電流は,
i1=(v1-v3)/R1 (12)
となる.演算増幅器の入力端子間を流れる電流iiはゼロであるから,式(12)の電流はすべて抵抗R2を流れる.その結果,R2には図のような+,-の向きに電圧が生じる.このとき,出力電圧は,
v4=v3-R2i1
=v3-R2(v1-v3)/R1
=(R1+R2)v3/R1-R2v1/R1
=R4(R1+R2)v2/(R1(R3+R4))-R2v1/R1 (13)
となり,2個の入力電圧の重み付きの減算ができる.
図6.減算回路
5.2 実験
(a) 減算回路を作成する.ただし,v1=v2,R1=12kΩ,R2=18kΩ,R3=12kΩ,R4=18kΩとする.電圧利得の実測値(v4/v1)と理論値(R4(R1+R2)/(R1(R3+R4))-R2/R1)を比較する.
6.積分回路
6.1 説明
図7に示した回路は,入力電圧を時間について積分した結果が出力電圧として得られる「積分回路」である.積分回路は反転増幅回路にコンデンサを追加したものと考えることができる.ラプラス変換の記号sを使用するとコンデンサは1/(sC)と表すことができるので,図4に示した反転増幅回路のR2をR2/(1+sCR2)に置き換えると,電圧利得は,
Av=v2/v1=-R2/(R1(1+sCR2)) (14)
となる.これをH(s)とし,さらにsをjωに置き換えたものが積分回路の「周波数特性」である.
H(ω)=-R2/(R1(1+jω CR2)) (15)
周波数特性の絶対値,すなわち「振幅周波数特性」はそれぞれの周波数における電圧利得の絶対値であり,次のようになる.
|H(ω)|=R2/(R1(1+ω2C2R22)0.5) (16)
積分回路は遮断周波数ωcが1/(CR2)の低域通過フィルタとなっており,遮断周波数ωcとコンデンサCの値が与えられると,抵抗R2の値を次のように計算することができる.
R2=1/(Cωc) (17)
図7.積分回路
6.2 実験
(a) 積分回路を作成する.ただし,遮断周波数をfc=5kHz(ωc=2π fc)とし,C=1nF,R1=R2=31.83kΩ(≈12kΩ+18kΩ+1.8kΩ)とする.
(b) 周波数を100Hzから100kHzまで変化させたときの振幅周波数特性(20log10(v2/v1)dB)を測定し,理想特性のグラフに書き加える.
(c) 遮断周波数よりも高周波(50kHz)の正弦波を入力信号とした場合の積分動作をスケッチする.∫sinθdθ=-cosθであること,さらに積分回路は基本的に反転増幅回路であり-1倍されることに注意せよ.
(d) 遮断周波数よりも低周波(500Hz)の正弦波を入力信号とした場合の積分動作をスケッチする.
7.微分回路
7.1 説明
図8に示した回路は,入力電圧を時間について微分した結果が出力電圧として得られる「微分回路」である.微分回路は反転増幅回路にコンデンサを追加したものと考えることができる.ラプラス変換の記号sを使用するとコンデンサは1/(sC)と表すことができるので,図4に示した反転増幅回路のR1をR1+1/(sC)に置き換えると,電圧利得は,
Av=v2/v1=-sCR2/(1+sCR1) (18)
となる.これをH(s)とし,さらにsをjωに置き換えたものが微分回路の周波数特性である.
H(ω)=-jωCR2/(1+jωCR1) (19)
周波数特性の絶対値,すなわち振幅周波数特性はそれぞれの周波数における電圧利得の絶対値であり,次のようになる.
|H(ω)|=ωCR2/(1+ω2C2R12)0.5 (20)
微分回路は遮断周波数ωcが1/(CR1)の低域通過フィルタとなっており,遮断周波数ωcとコンデンサCの値が与えられると,抵抗R1の値を次のように計算することができる.
R1=1/(Cωc) (21)
図8.微分回路
7.2 実験
(a) 微分回路を作成する.ただし,遮断周波数をfc=5kHz(ωc=2πfc)とし,C=1nF,R1=R2=31.83kΩ(≈12kΩ+18kΩ+1.8kΩ)とする.
(b) 周波数を100Hzから100kHzまで変化させたときの振幅周波数特性(20log10(v2/v1)dB)を測定し,理想特性のグラフに書き加える.
(c) 遮断周波数よりも高周波(50kHz)の正弦波を入力信号とした場合の微分動作をスケッチする.
(d) 遮断周波数よりも低周波(500Hz)の正弦波を入力信号とした場合の微分動作をスケッチする.d/dθsinθ=cosθであること,さらに微分回路は基本的に反転増幅回路であり-1倍されることに注意せよ.
8.フィルタの設計
8.1 説明
フィルタとは所望の周波数帯域の信号のみを通過させ,それ以外の信号を除去または減衰させる目的で設計された伝送回路であり,
(a) 低域通過フィルタ (Low Pass Filter: LPF)
(b) 高域通過フィルタ (High Pass Filter: HPF)
(c) 帯域通過フィルタ (Band Pass Filter: BPF)
(d) 帯域阻止フィルタ (Band Eliminate Filter: BEF)
の4種類に大別される.
初期のフィルタは抵抗,コイル,コンデンサの組み合わせで構成された,いわゆる「パッシブ・フィルタ」であり,電源が不要で実現も容易であるといった利点を有し,電話伝送系を主体として利用された.しかしながら,パッシブ・フィルタでは特性の良いフィルタを実現することが困難であったことから,演算増幅器等の能動素子と組み合わせた「アクティブ・フィルタ」が考案された.
演算増幅器を使用した改良型セイレン・キー2次低域通過フィルタを図9に示す.まず,演算増幅器の入力端子間の電圧,電流はゼロであることから,次の関係を導出することができる.
(v1-v2)/R1=sC(v2-v3) (22)
(v2-v3)/R2=sCv3 (23)
式(22),式(23)からv2を消去すると,
(v1-(1+sCR2)v3)/R1=sC((1+sCR2)v3-v3) (24)
となる.したがって,電圧利得は,
Av=v3/v1=1/(C2R1R2s2+CR2s+1) (25)
となる.ここで,次のように遮断周波数ωcとQを定義する.
ωc=1/(C(R1R2)0.5) (26)
Q=(R1/R2)0.5 (27)
式(26),式(27)を式(25)に代入すると,
Av=ωc2/(s2+ωcs/Q+ωc2) (28)
となる.これをH(s)とし,さらにsをjωに置き換えたものが改良型セイレン・キー2次低域通過フィルタの周波数特性となる.
H(ω)=ωc2/(-ω2+jωcω/Q+ωc2) (29)
したがって,振幅周波数特性は次のようになる.
|H(ω)|=ωc2/((ωc2-ω2)2+ωc2ω2/Q2)0.5 (30)
所望の遮断周波数ωcおよびQについてフィルタを設計するには,コンデンサCの値を決定した後,抵抗R1とR2の値を次式より計算すればよい.
R1=Q/(Cωc) (31)
R2=1/(QCωc) (32)
図9.改良型セイレン・キー2次低域通過フィルタ
8.2 実験
(a) 改良型セイレン・キー2次低域通過フィルタを作成する.ただし,遮断周波数をfc=5kHz(ωc=2πfc),Qを2とし,C=1nF,R1=63.66kΩ(≈39kΩ+22kΩ+2.7kΩ),R2=15.92kΩ(≈12kΩ+3.9kΩ)とする.
(b) 周波数を100Hzから100kHzまで変化させたときの振幅周波数特性(20log10(v3/v1)dB)を測定し,理想特性のグラフに書き加える.
9.課題
演算増幅器に関して,自ら課題をひとつ設定し,調査せよ.課題の例としては以下を挙げておく.
(a) 演算増幅器の歴史について
(b) 演算増幅器の応用回路について
付録
Last Modified: October 1 12:00 JST 2006 by Naofumi Aoki
E-mail: aoki@nis-ei.eng.hokudai.ac.jp