トランジスタ基本回路の原理と設計

科目名: 電子工学実験I(2000年〜2004年)
対象: 電子工学科3年目
実験室: 情報エレクトロニクス棟6階6-13
レポート提出締切: 次週の火曜日
レポート提出先: 情報エレクトロニクス棟6階6-08
連絡先: 青木 直史(Tel: 706-6532)(E-mail: aoki@nis-ei.eng.hokudai.ac.jp)

目的

 トランジスタは電気信号の増幅ならびにスイッチングを行う非常に重要な電子回路素子である.本実験は,バイポーラトランジスタの電圧電流特性の測定,および増幅回路の設計を通して,トランジスタの基本動作について理解を深めることを目的としている.

1.はじめに

 図1に示すように,トランジスタは,「バイポーラトランジスタ(Bipolar Transistor)」と「電界効果トランジスタ(Field-Effect Transistor: FET)」の2種類に大きく分類される.

 その中で,バイポーラトランジスタは半導体の極性の違いから「npn型」と「pnp型」の2種類に分類される.また,FETは「nチャネル型」と「pチャネル型」の2種類に分類される.

 なお,FETは「金属酸化皮膜半導体型FET(Metal Oxide Semiconductor FET: MOS FET)」と「接合型FET(Junction FET: JFET)」の2種類に分類される.さらに,MOS FETは電気的特性の違いから「ディプレション型」と「エンハンスメント型」の2種類に分類される.

 本実験は,npn型バイポーラトランジスタの電圧電流特性の測定,および増幅回路の設計を通して,トランジスタの基本動作について考察する.



図1.トランジスタの分類

2.バイポーラトランジスタ

2.1 説明
 図2(a)に示すように,バイポーラトランジスタは,「エミッタ(E: Emitter)」,「コレクタ(C: Collector)」,「ベース(B: Base)」の3端子を持つ電子回路素子となっている.

 本実験で使用するnpn型バイポーラトランジスタ,2SC1815を図2(b)に示す.2SC1815では,パッケージの正面に向かって左からエミッタ,コレクタ,ベースの順に端子が配置されている.



図2.(a) npn型バイポーラトランジスタの記号,(b) 2SC1815

 図3(a)は,2SC1815におけるコレクタ-エミッタ間電圧VCEとコレクタ電流ICの関係である.ベース電流IBを一定にすると,VCEが小さい遷移領域を除いてICはおおよそ一定となる.このように,バイポーラトランジスタはベース電流IBの大きさによってコレクタ電流ICを制御する「電流制御型電流増幅器」となっている.すなわち,バイポーラトランジスタでは,

    IC=hFEIB        (1)

という関係が成立する.ここで,hFEは「直流電流増幅率」であり,図3(a)ではおおよそ230となっている.

 図3(b)は,2SC1815におけるベース-エミッタ間電圧VBEとベース電流IBの関係である.ベース-エミッタ間はダイオードと同じ構造になっているため,同様の特性を示すことになる.なお,エミッタ端子の矢印はベース-エミッタ間をダイオードに見立てたときの順方向を表している.



図3.2SC1815の電圧電流特性:(a) VCE-IC特性,(b) VBE-IB特性

2.2 実験
 図4の回路を構成し,2SC1815のVCE-IC特性とVBE-IB特性を測定する.
(a) ベース電流IBを10µAに固定して,コレクタ-エミッタ間電圧VCEを0Vから15Vまで変化させたときのコレクタ電流ICの変化を測定する.測定結果を付録のグラフに書き加える.

(b) コレクタ-エミッタ間電圧VCEを7.5Vに固定して,ベース-エミッタ間電圧VBEを0Vから0.7Vまで変化させたときのベース電流IBを測定する.測定結果を付録のグラフに書き加える.



図4.VCE-IC特性とVBE-IB特性の測定回路

3.増幅回路の設計

3.1 説明
 2SC1815を使用して交流信号の増幅回路を設計してみよう.交流信号の増幅回路を適切に動作させるにはコレクタ-エミッタ間およびベース-エミッタ間に適切な「バイアス電圧」をかける必要がある.ここでは,図5に示す「固定バイアス回路」について考えてみる.



図5.固定バイアス回路

 図5から,次の関係を導出することができる.

    15=RCIC+VCE        (2)

    15=RBIB+VBE        (3)

 バイアス点Qとして,VCE=7.5V,IB=10µAとすると,図6(a)に示すVCE-IC特性よりIC=2.3mAとなることがわかる.したがって,式(2)に代入すると,

    15=RC×2.3×10-3+7.5        (4)

となり,RC=3.26kΩとなる.

 また,IB=10µAであることから,図6(b)に示すVBE-IB特性よりVBE=0.67Vとなることがわかる.したがって,式(3)に代入すると,

    15=RB×10×10-6+0.67        (5)

となり,RB=1.43MΩとなる.



図6.バイアス点:(a) VCE-IC特性,(b) VBE-IB特性

3.2 実験
(a) 固定バイアス回路を作成する.ただし,バイアス点をVCE=7.5V,IB=10µAとし,RC=3.3kΩ,RB=1.42MΩ(1.2MΩ+220kΩ)とする.

(b) バイアス回路にコンデンサを加えて,図7の「交流増幅回路」を作成する.ただし,C=10µFとする.周波数を100Hzから100kHzまで変化させたときの「振幅周波数特性」(20log10(v2/v1)dB)を測定し,付録のグラフに書き加える.



図7.交流増幅回路

4.課題

 トランジスタに関して,自ら課題をひとつ設定し,調査せよ.課題の例としては以下を挙げておく.
(a) トランジスタの歴史について

(b) トランジスタの応用回路について

付録


Last Modified: October 1 12:00 JST 2006 by Naofumi Aoki
E-mail: aoki@nis-ei.eng.hokudai.ac.jp